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特集:第10回 松下幸之助人生をひらく言葉

「体験のなかの失敗や成功の味をかみしめよ」

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 体験というものは、何か事が起こらなくてはできないのかというと、そうではない。日々にやることが一つひとつ失敗の体験であり、また成功の体験である。また失敗の体験は成功の過程にもあり、失敗の過程にも成功の体験があるのである。きょう一日を振り返り、失敗や成功を見出し、その味をかみしめる。これが体験である。反省することなしにポカンと暮らしてしまえば、これは体験にならない。たとえ年長者であっても、体験を体験としてかみしめることをしなかった人は、先輩としての価値がない。

PHP研究所では

昭和五十二年からゼミナール活動を始め、現在では全国の企業から多くの経営者や社員の方々が様々なコースを受講されています。
 けれども、当初は松下幸之助の経営理念を松下自身の事例から学ぶ講座だけを松下電器の幹部対象に行なっていました。
 ある日のこと、たまたまPHP研究所に来あわせた松下は、「ゼミナールが行われているのならぼくも出るわ」と顔を出し、こう話しました。
「この研修を受けてもみなそれぞれに持ち味があるからな。その持ち味を生かさんとあかんな。ぼくはこのようにやったけど、今は時代も変わっているから、そのまま通用するかどうか分からんで。その精神を現在の時代なり、現在の状況にあわせて自分で考えないといかんな」
 松下が言いたかったのは、時代も違うし人それぞれに個性、持ち味も違う。だから商売や経営のやり方にしても違いがあって当然で、ゼミナールで勉強するのはいいが、学んだことを持ち帰ってそれを参考にしつつ、みずからの現場で自分なりに気づきを得、仕事や経営のコツをつかまなければ本物にならない、ということでした。
 松下は体験から得た知識や知恵を非常に大事にしていました。
「塩の辛さ、砂糖の甘さはなめてみなければ分からない」と言い、頭だけで得た知識は本物ではない、自分で見聞、体験して、〝ああそうか〟と、自分の腹の底にすとんと落とすことができて、初めて臨機応変に使うことができる知恵になると考えていたからです。
 したがって、社会教育も現場に重きを置き、基本はあくまでOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング=職場内訓練)でなければならないと考えていました。
 四十歳を過ぎて役所を途中退官し松下電器に入社した社員を、ある事業部の製造部長に任命したとき、「君には物づくりを勉強してもらう。だから、事務所あたりに机を持っとっちゃいかん。工場のなかや。工場のなかに机を持ち込んで仕事をすることや」と命じています。
 松下は社員に、工場現場のなかでさまざまな体験を重ね、その体験のなかの失敗や成功を日々十分に味わって、仕事や経営のコツをつかんでほしい、ということを願っていたのでしょう。

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松下幸之助氏とは、中村社長が尊敬する人物の一人。
パナソニックの創業者である松下幸之助氏が生前に語られたお言葉は英知と洞察にあふれています。
この特集ページでは、毎号ひとつずつ皆様にご紹介いたします。(PHP出版の書籍より)

【松下幸之助】日本の実業家、発明家。
パナソニック(旧社名:松下電器産業、松下電器製作所、松下電気器具製作所)を一代で築き上げた経営者である。異名は経営の神様。自分と同じく丁稚から身を起こした思想家の石田梅岩に倣い、PHP研究所を設立して倫理教育に乗り出す一方、晩年は松下政経塾を立ち上げ政治家の育成にも意を注いだ。

PHP総合研究所 研究顧問 谷口全平
松下電器の創業者である松下幸之助は、資金も学問もなくしかも病弱。
「徒手空拳」ですらなく、マイナスからの出発であった。
にもかかわらず、かにして成功を収めることができたか?
本書は波瀾に満ちた94年生涯で語られた【人生をひら言葉】を軸に、松下幸之助の信条や経営観、人間としての喜びを解説した。「勝てばよし」がまがり通る今日、「なぜ生きるのか」を問う人生の書である。