• HOME
  • 特集:第16回 松下幸之助人生をひらく言葉

特集:第16回 松下幸之助人生をひらく言葉

「諸君は"社員稼業"の社長である」

72人生をひらく言葉(松下幸之助).jpg
 何々の会社の社員としての職を持って世に立つということは本質的には独立していることである。皆さんは社員という会社の社長である、独立しているひとつの職業を持っているんだ、というように考えてはどうか。"社員稼業"の社長とは諸君である。私もそうである。こういう襟度を持って仕事にいそしむべきであると私は考えております。しかしそういう高い襟度を持って終始一貫する人は非常に少ない。そう思っていてもいつとはなしに、いわゆる世間でいう社員気質にだんだんなってしまうのです。

妻とその弟との

三人で事業を起こした松下幸之助は、業容が拡大し、従業員が増えていく過程で、人間というものはそれぞれに無限の能力を持っている、しかしそれは、他を頼っている限りは出てこない、自主独立の気概があって初めて湧いてくるものだ、とういうことを痛感してきました。
 けれども、ともすると易きに流れ、他を頼ろうとするのもまた人間の一面だということも同時に感じてきました。
 したがって、松下が経営者として常に心がけてきたことは、従業員に生まれてくる依存心を払拭し、自主独立の精神を呼び起こすことでした。
 昭和八年から事業部制を日本で初めてとる等、組織を細分化して、その責任者に大幅に権限と責任を委譲してきたのも、そのような考え方からでした。また幹部に「部は部長、課は課長、係は係長一人の責任である」、一般社員に「諸君は【社員稼業】の社長である。われわれの仕事はいずれも一つの経営と考えなければならない」と訴えてきたのも、そのためでした。
 昭和三十八年の経営方針発表会では、もしあなたが屋台の夜鳴きうどん屋の主人であったらと、自主独立の精神を訴えています。
 「みずから進んでうどんを売るという心がけで仕事をしなければならないでしょうし、お客さんに呼びかける必要もありましょう。きょうのおつゆの味はどうであるかとみずから食べてみて、考えるということもやりましょう。最初のお客さんが来られたときに、そのお客さんにうどんを渡し、第一に発する言葉は『きょうの味はいかがですか』ということだと思うのです。熱心であれば当然そうなるだろうと思うのです。そういう努力の姿に、独立自営の花が咲くと思うのです」
 そして、月給をもらっているからやるというようなケチな考えではなく、自分は独立自営の経営者だと考えて、熱心なうどん屋の主人のように真剣に創意工夫を働かせてほしい、「そういうような心境になったら、仕事に伴う苦痛というものはなくなるでしょうし、働く喜び、自分の稼業の繁栄していく喜びに、時の経つのも知らない、ということになるだろう」と言うのです。


72人生をひらく言葉(本の表紙).jpg
松下幸之助氏とは、中村社長が尊敬する人物の一人。
パナソニックの創業者である松下幸之助氏が生前に語られたお言葉は英知と洞察にあふれています。
この特集ページでは、毎号ひとつずつ皆様にご紹介いたします。(PHP出版の書籍より)

【松下幸之助】日本の実業家、発明家。
パナソニック(旧社名:松下電器産業、松下電器製作所、松下電気器具製作所)を一代で築き上げた経営者である。異名は経営の神様。自分と同じく丁稚から身を起こした思想家の石田梅岩に倣い、PHP研究所を設立して倫理教育に乗り出す一方、晩年は松下政経塾を立ち上げ政治家の育成にも意を注いだ。

PHP総合研究所 研究顧問 谷口全平
松下電器の創業者である松下幸之助は、資金も学問もなくしかも病弱。
「徒手空拳」ですらなく、マイナスからの出発であった。
にもかかわらず、かにして成功を収めることができたか?
本書は波瀾に満ちた94年生涯で語られた【人生をひら言葉】を軸に、松下幸之助の信条や経営観、人間としての喜びを解説した。「勝てばよし」がまがり通る今日、「なぜ生きるのか」を問う人生の書である。