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特集:第9回 松下幸之助人生をひらく言葉

「お金は仕事の潤滑油」

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なぜわれわれは働くかということを考えた場合、働かなければ食っていけないからということもありますが、それだけではない。
人間生活のいっさいをあすはきょうよりよくしていく、そのために働かなければならないものだと思うんです。
サービス業の人も製造業の人も、みんなそういうことを目的としているんですね。
そうした人間の働き、つまり経済活動をスムーズにするいわば潤滑油がお金だと思います。
お金は目的ではなくあくまで道具であって、働く目的は人間生活の向上であるということですね。

昭和二十九年

松下幸之助が銀行に挨拶に行ったとき、銀行の重役から「あなたは会社をどこまで拡張するつもりですか」という質問を受けました。
 そのとき松下は、こう答えています。
「それは私にも分かりません。会社を大きくするか、小さくするかということは、社長の私が決めることではありません。すべて社会が決定してくれるものだと思います。会社が立派な仕事をして消費者の方々に喜んでいただくならば、もっとつくれという要望が集まってくる。その限りにおいてはどこまでも拡張しなければなりません。しかし、逆にわれわれがいかに現状を維持したいと考えても、悪いものをつくっていたのではだんだん売れなくなって、現状維持どころか縮小せざるをえなくなる。だから会社の今後の発展はすべて社会が決定してくれるのです」
 企業が懸命に社会の人々に奉仕し、喜ばれていれば、その奉仕の見返りとして、社会から拡大資金としての利益が与えられると言うのです。
 松下は事業経営を行なう過程で、仕事や事業というものは、公のものである、と考えるようになっていきました。
 つまり人々の生活文化を高めていくためにあるのだ。そして、資本なりお金は、その仕事や事業をスムーズに進めるための潤滑油のようなものであり、人々のためになるいい仕事をしていれば、それは必ずついてくる。
 たとえば、歌手を考えても、あの人の歌を聴きたいと思えばこそ、お金を出してコンサートへ足を運ぶ。また、あそこのレストランの食事が安くておいしいと思えばこそ食べに行く。
 いくら儲けようと思っても、それに値するような仕事をしていなければお金はついてこない。儲けというのは、〝おまえ、もっとしっかりやれよ〟という世間の声でもある。
 だから、潤滑油であるお金のみのために仕事をしてはいけない。お金はどこまでも道具であって、目的はあくまで人間生活の向上である、と言うのです。
 銀行の重役への返答に松下のその考え方がよく表われていますが、人間がお金に取りつかれ、振り回されている昨今の世相を見るとき、今一度、考えるべき大切な視点であるように思われます。

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松下幸之助氏とは、中村社長が尊敬する人物の一人。
パナソニックの創業者である松下幸之助氏が生前に語られたお言葉は英知と洞察にあふれています。
この特集ページでは、毎号ひとつずつ皆様にご紹介いたします。(PHP出版の書籍より)

【松下幸之助】日本の実業家、発明家。
パナソニック(旧社名:松下電器産業、松下電器製作所、松下電気器具製作所)を一代で築き上げた経営者である。異名は経営の神様。自分と同じく丁稚から身を起こした思想家の石田梅岩に倣い、PHP研究所を設立して倫理教育に乗り出す一方、晩年は松下政経塾を立ち上げ政治家の育成にも意を注いだ。

PHP総合研究所 研究顧問 谷口全平
松下電器の創業者である松下幸之助は、資金も学問もなくしかも病弱。
「徒手空拳」ですらなく、マイナスからの出発であった。
にもかかわらず、かにして成功を収めることができたか?
本書は波瀾に満ちた94年生涯で語られた【人生をひら言葉】を軸に、松下幸之助の信条や経営観、人間としての喜びを解説した。「勝てばよし」がまがり通る今日、「なぜ生きるのか」を問う人生の書である。