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特集:第11回 松下幸之助人生をひらく言葉

「念入りに、しかも早く」

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 物事を、ていねいに、念入りに、点検しつくしたうえにもさらに点検して、万全のスキなく仕上げるということは、これはいかなる場合にも大事である。しかし、今日は、時は金なりの時代。一刻一秒が尊いのである。だから、念入りな心配りがあって、しかもそれが今までよりもさらに早くできるというのでなければ、ほんとうに事を成したとはいえない。早いけれども雑だというのもいけないし、ていねいだが遅いというのもいけない。念入りに、しかも早くが求められている。

松下幸之助が

 銀座にある理髪店に行った時のことです。
 店員さんが、「商売というものはサービスが大切ですから、特に念入りにやりましょう」と、普通一時間で整髪するところを、一時間十分かけてていねいにやってくれました。
 そのとき、松下は、次のようなことを言いました。 「あなたがサービスに努めようとしておられるのは非常に結構なことだと思います。しかしね、時は金なりと言うではありませんか。ていねいに散髪してくれるのはありがたいが、十分間もよけいに時間がかかったのでは、真のサービスになりませんよ。ていねいであって、しかも一時間のところを五十分にするとか、四十五分にするとか、そういうことが考えられませんか。徳川時代であればよけいに時間をかければ喜ばれるでしょうが、今日では、時は金なりということを心がける必要がある。これがアメリカであれば、散髪に一時間もかかるといったら、だれも来てくれなくなりますよ」
 それからしばらくして、松下はその店員さんに整髪をしてもらったところ、はさみさばきも鮮やかに、五十分で仕上げてくれたのでした。
 松下は、自分の会社の従業員にも、しばしばこう訴えていました。 「時代のテンポが速くなってきているだけに、何事を行なうにもスピードを考えなければならない。芸術であれば、三年、五年かかってようやく一つの作品ができても、それはそれで評価できる。また、そういう生き方も立派なこととして残さなければいけないと思う。しかし、われわれの仕事は実用価値を大切にしなければならないだけに、やはり時間がかかれば結局ものが成り立たなくなるし、実用にならんということになる」  だから常に、いいものを、より安く、少しでも早くつくれるように、訓練に訓練を重ねなければならない、と言うのです。
 早くすれば雑になり、念入りにすれば時間がかかる、それが普通の姿なのかもしれません。
 しかし、それを克服し、念入りに、しかも早くしようと努力するところに技術の進歩も、社会の発展も生まれてくるのです。

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松下幸之助氏とは、中村社長が尊敬する人物の一人。
パナソニックの創業者である松下幸之助氏が生前に語られたお言葉は英知と洞察にあふれています。
この特集ページでは、毎号ひとつずつ皆様にご紹介いたします。(PHP出版の書籍より)

【松下幸之助】日本の実業家、発明家。
パナソニック(旧社名:松下電器産業、松下電器製作所、松下電気器具製作所)を一代で築き上げた経営者である。異名は経営の神様。自分と同じく丁稚から身を起こした思想家の石田梅岩に倣い、PHP研究所を設立して倫理教育に乗り出す一方、晩年は松下政経塾を立ち上げ政治家の育成にも意を注いだ。

PHP総合研究所 研究顧問 谷口全平
松下電器の創業者である松下幸之助は、資金も学問もなくしかも病弱。
「徒手空拳」ですらなく、マイナスからの出発であった。
にもかかわらず、かにして成功を収めることができたか?
本書は波瀾に満ちた94年生涯で語られた【人生をひら言葉】を軸に、松下幸之助の信条や経営観、人間としての喜びを解説した。「勝てばよし」がまがり通る今日、「なぜ生きるのか」を問う人生の書である。