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特集:第12回 松下幸之助人生をひらく言葉

「一日の遅れは百日の遅れ」

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 進歩が速いと申しますか、技術的な問題はですね、うっかりしているとぐっと遅れてしまう。フッと気がついたらもう時すでに遅いというようなきらいがあると思うんです。ですから、常に変化に応ずる心がまえというものを持って、技術進歩の面に、科学発展の面に、対処しないといかんというような感じがするんです。柔軟な頭でですね、その変化に応ずるというものを持っていないといけない。そうでなければ、一日の遅れは百日の遅れになるということになろうかと思います。

松下幸之助は、

 「生成発展が自然の理法」であると考えていました。
 つまりこの大自然、大宇宙は、無限の過去から無限の未来に向かって絶えざる生成発展を続けている。そのなかにあって、われわれもまた、その理法に従って日に新たでなければならない、そこに人間としての幸福も、組織や社会の繁栄、発展も生まれてくると言うのです。
 昭和十年代、電池工場の営業事務所に松下がふらりと寄ったときのこと。企画課長の机の上に電池ランプがあるのを見つけた松下は、前の椅子に座り、それを懐かしそうに手にとってスイッチをパチパチと入れたり切ったりしていました。そのランプは松下自身が昭和二年に考案発売したものでした。
 松下は企画課長に、「君、今のスイッチはどないなっとるのや」と尋ねました。
「はい、今もこれを使わせてもらっています」
 その言葉を聞くと、それまでニコニコしていた松下の顔がみるみる険しくなっていきました。
「なに!君、このスイッチはわしがつくったやつやで。わしが考え出したスイッチや。君が考えたのはどれなんや。君は何もやってへんのか!」
 それは事務所中に響き渡るような大きな声でした。そして、立ち上がるとぬっと手を出し、「返してくれ! 返してくれ!月給を返してくれ!」と言ったのです。
 しばらく沈黙が続いたあと、
「もうええわ。しかしな、君やったらやってくれると思ってたんや。今でも思ってんのや」
 そうポツリと言い残して部屋を出て行きました。松下は社員が次々と新しい工夫を重ねてくれることを心から期待していたのです。
 好むと好まざるとにかかわらず激しく変化する時代、止まるということは即退歩を意味するのでしょう。松下はこうも言っています。
「一を聞いて、そして一を尋ねて〝ああ、そうか〟と合点する時はもう遅い。一を聞いてすぐに二を考える。三を考えてそれをすぐに実行に移す。そういうスピーディにものを行ない、次々と新しい考え方をば生み出していくことの連続と申していい、そういう時代がもう来ていると思う」

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松下幸之助氏とは、中村社長が尊敬する人物の一人。
パナソニックの創業者である松下幸之助氏が生前に語られたお言葉は英知と洞察にあふれています。
この特集ページでは、毎号ひとつずつ皆様にご紹介いたします。(PHP出版の書籍より)

【松下幸之助】日本の実業家、発明家。
パナソニック(旧社名:松下電器産業、松下電器製作所、松下電気器具製作所)を一代で築き上げた経営者である。異名は経営の神様。自分と同じく丁稚から身を起こした思想家の石田梅岩に倣い、PHP研究所を設立して倫理教育に乗り出す一方、晩年は松下政経塾を立ち上げ政治家の育成にも意を注いだ。

PHP総合研究所 研究顧問 谷口全平
松下電器の創業者である松下幸之助は、資金も学問もなくしかも病弱。
「徒手空拳」ですらなく、マイナスからの出発であった。
にもかかわらず、かにして成功を収めることができたか?
本書は波瀾に満ちた94年生涯で語られた【人生をひら言葉】を軸に、松下幸之助の信条や経営観、人間としての喜びを解説した。「勝てばよし」がまがり通る今日、「なぜ生きるのか」を問う人生の書である。