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vol.88 特集:第23回 松下幸之助人生をひらく言葉

「世間は正しく評価してくれる」

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 学校であれば、暗記力がいいとか、思考力もある程度いいとか、五つか六つの要素で、成績が一番、二番、三番と、ずっと順番つきますわ。社会では五つや六つやおまへんわ。声ひとつでもですね、あいつの声ええよって物買うたろかとなるんですな。ムチャクチャですわ。そのように千差万別ですね。非常にたくさんの点からその人が総合的に評価されて、初めて順序がつくんですからね。総合した点数というものを、やっぱり世間というものはきちっと見ておるわけですね。

金もなく、学問もなく、

しかも健康に恵まれなかった松下幸之助が、大正七年三月に松下電器を創業して約四十年、世間は松下を「日本一の金持ち」「経営の神様」とまで呼ぶようになっていました。
 松下は昭和三十七年のある日、PHP研究所の若い所員を前にして、次のようにしみじみと述べています。
「今から四十数年前は、大阪電灯で日給八十四銭で働いていた。ぼくは学校もろくに卒業してへんし、身体は半病人で弱い。どこひとつとりえがない。それが今、日本一の金持ち、経営の神様とまで言われるようになった。これはどう考えても不思議だ。運命としか考えられないな」
 ゼロから出発した松下にとって、これは正直な感懐ではなかったでしょうか。
 しかし一方で松下は、事業を進め、さまざまな見聞や体験を重ねる過程で、知識が豊富で体力もあり、口八丁手八丁のいかにも有能な人が必ずしも成功しているわけではない。お金や学問、あるいは健康は大切だけれども、それらがすべてではない。人間にはそれぞれに千差万別、万差億別のさまざまな能力、持ち味があって、それらを世間は、いろいろな面から総合的に正しく評価してくれる、と考えるようになっていました。
 もちろん、個々の場合について見れば、ときには、誤った判断、誤った処遇をされる場合もあるかもしれません。よい考えを持ち、真剣に努力をしても、なかなか受け入れられない場合もあるでしょう。しかし、松下はこう言います。
「長い目で見れば、やはり世間は正しく、信頼を寄せるべきものと考えていいと思います。そう考えるところに、大きな安心感が生まれ、いたずらに動揺することなく日々の商売に力いっぱい打ち込んでいけるのではないかと思うのです。」
 私たちはともすると、他人と比較して、『この点もダメだ』『この点も欠けている』と落ち込んでしまいがちです。しかし、世間はさまざまな面から総合的に正しく評価してくれている、と考えれば、おごることなく卑下することもなく、「正しい世間に照らし合わせて懸命に生きていこう」という意欲も生まれてくるのではないでしょうか。


~社史室・松下幸之助歴史館 編~パナソニックホームページより
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これぞ昭和の雷門~門の再建と松下幸之助創業者~

「はや目の前に十二階、雷門より下り立てば、ここ浅草の観世音、詣ずる人は肩を擦る」これは明治に流行った、東京名所を路面電車でめぐる『電車唱歌』の一節だが、実はその頃、繁華の地としての雷門は知られていても、門そのものは慶応元年(1865)の火事で焼け落ち、幻となっていた。
明治、大正と続いた「門なき雷門」に終止符が打たれたのは、昭和35年(1960)のこと。再建に力を添えたのは松下幸之助であった。時の浅草寺貫首、清水谷恭順大僧正は上京中の創業者を訪ね、「雷門を建ててください」と浅草の声を伝えた。創業者はしばし黙考の後、おもむろに口を開き、「寄進させていただきます。が、なるべく名は出さないでください」と返答した。
1年後、昭和の雷門は完成し、歌川広重らの錦絵に見る往時の荘厳華麗が見事再現された。開通式に招かれた松下幸之助は、「こういうものは縁ではないですか。縁がなければいいものはできませんな」と語り、喜びを隠さなかった。縁が結ばれ半世紀、肩摺りながら雷門をくぐる人の波は今日も絶えない。門と大提灯に刻まれた松下幸之助と松下電器の名を、いったい幾人が眼にしたことだろう。


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松下幸之助氏とは、中村社長が尊敬する人物の一人。
パナソニックの創業者である松下幸之助氏が生前に語られたお言葉は英知と洞察にあふれています。
この特集ページでは、毎号ひとつずつ皆様にご紹介いたします。(PHP出版の書籍より)

【松下幸之助】日本の実業家、発明家。
パナソニック(旧社名:松下電器産業、松下電器製作所、松下電気器具製作所)を一代で築き上げた経営者である。異名は経営の神様。自分と同じく丁稚から身を起こした思想家の石田梅岩に倣い、PHP研究所を設立して倫理教育に乗り出す一方、晩年は松下政経塾を立ち上げ政治家の育成にも意を注いだ。

PHP総合研究所 研究顧問 谷口全平
松下電器の創業者である松下幸之助は、資金も学問もなくしかも病弱。
「徒手空拳」ですらなく、マイナスからの出発であった。
にもかかわらず、かにして成功を収めることができたか?
本書は波瀾に満ちた94年生涯で語られた【人生をひら言葉】を軸に、松下幸之助の信条や経営観、人間としての喜びを解説した。「勝てばよし」がまがり通る今日、「なぜ生きるのか」を問う人生の書である。