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特集:第5回 松下幸之助人生をひらく言葉

「心配こそ生きがい」

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心配でかなわんな、晩も寝られないということが、たくさんありました。
ほんとうに脈が結滞したこともたびたびありました。
しかし"こういう心配で脈が止まったりするようなことは、これは自分自身の生きがいである。
社長がそういうようなことを感じない、社長が楽々といくというのであれば社長を辞めたらよい。
社長こそ心配する役や。
社員のなかでいちばん心配が多いのが社長である。
そこに社長の生きがいがあるんだ"ということを、私は自分自身に言いきかせて、それで難関を突破してきたわけです。

松下幸之助は、よく人から、「松下さん、あんたえらい成功しましたな」「大変順調にいっていますね」と言われてきました。
そんなとき、「おかげさまで。ありがとうございます」と笑顔で応えるのですが、内心、『ほんとうは人が思うようなものではなく、随所に問題があり、毎日が煩悶、一喜一憂の連続なのだ』と思うのでした。
松下は、二十二歳で独立、電気器具製造販売の事業を起こしますが、それ以来、経営者としての悩みや心配事に日々直面することになりました。生来、どちらかというと神経質な性格だけに、その悩みには深いものがありました。
創業の頃、初めて採用した従業員が出勤してくれるのかどうかが心配で工場の前に立って待っていたこともありました。
あるいは、工場で不正を働く従業員が出たとき、どう処置したらよいのか悩んだこともありましたし、税金の申告額に見解の相違があり、税務署から調べに行くと言われたときには、心配で夜も眠れず悶々としたこともありました。
もちろん不景気のなかで商品が売れず、倉庫に在庫の山を抱えて困ったこともありました。
こうした悩みと心配事の連続のなかで、『社長の仕事は心配することではないか』ということに気づきます。
たとえばかりに、世間からいい会社だと言われているような会社があって、そこに新しい社長が来たとする。そのときに、『いい会社へ入った。これは具合いいな』と思うような社長だったらその会社はもう伸びない。新しく来た社長が立派な人だったら、『いい会社だと世間では言っているが、入ってみたら問題だらけだ。これは直さなきゃいかん』ということで、そこから心配が生まれる。
その日から心配に次ぐ心配で、心配と戦っているうちに、その会社がほんとうに立派になるのだ、というように考えたのです。
だから幹部社員にもこう訴えかけています。
「たとえば工場に百人おれば、いちばん心配が多いのが工場長である。その心配が多い仕事をするところに工場長としての生きがいがあるのた。そこに生きがいを感じないような人は工場長を辞めたらよい」

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【松下幸之助】氏とは、中村社長が尊敬する人物の一人。
パナソニックの創業者である松下幸之助氏が生前に語られたお言葉は英知と洞察にあふれています。
この特集ページでは、毎号ひとつずつ皆様にご紹介いたします。(PHP出版の書籍より)
【松下幸之助】日本の実業家、発明家。
パナソニック(旧社名:松下電器産業、松下電器製作所、松下電気器具製作所)を一代で築き上げた経営者である。異名は経営の神様。自分と同じく丁稚から身を起こした思想家の石田梅岩に倣い、PHP研究所を設立して倫理教育に乗り出す一方、晩年は松下政経塾を立ち上げ政治家の育成にも意を注いだ。

PHP総合研究所 研究顧問 谷口全平
松下電器の創業者である松下幸之助は、資金も学問もなくしかも病弱。
「徒手空拳」ですらなく、マイナスからの出発であった。
にもかかわらず、かにして成功を収めることができたか?
本書は波瀾に満ちた94年生涯で語られた【人生をひら言葉】を軸に、松下幸之助の信条や経営観、人間としての喜びを解説した。「勝てばよし」がまがり通る今日、「なぜ生きるのか」を問う人生の書である。