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vol.92 特集:第25回 松下幸之助人生をひらく言葉

「とどめを刺す」

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 昔の侍というものは、とどめを刺すということを非常に大事にしていました。昔のことでありますから、とどめを刺すという言葉自体には、非常に不穏当な響きがあります。人を殺して、ほんとうに死んでいるかどうか、とどめを刺すというのでありますから、あまり人殺しの話はしないほうがいいと思うのですが、しかし、その趣旨は大いにおもしろいと思うんです。結局ダメを押すということなんですね。仕事にダメを押すということと一緒だと思うんです。やりっぱなしの人と、ダメを押す人と、どう違うかということですね。

昭和四十四年の夏、

松下電器で、大阪・枚方の体育館に幹部社員数千人を集めて経営懇談会が催されました。
 当時、会長であった松下幸之助は社長、副社長のあとで話をすることになっていました。ところが、副社長の話の途中で、最前列に座っていた松下がふと立ち上がって後ろのほうに歩いていくのです。
 みなは、高齢の会長のことだから「トイレかな」くらいに思っていましたが、途中で立ち止まったり、横のほうに行ってみたり、どうもそうではなさそうです。やがて席に戻り、話をする番になりました。
 開口一番松下は、「話に入ります前に、少し製品の検討会をしたいと思います」と、次のように話し出しました。
「先ほど副社長が話を始められたとき、最前列で聞いていますと、いつもと違って聞き取りにくい。調子がおかしいと思って席を立ってずっと後ろへ行って聞いてみたんです。そうすると前で聞くよりも少し聞きやすいのですけれど、いつもの声とスピーカーの響きが違うんです。『スピーカー変えたんと違うか』と尋ねると、『変えました。よくなっているはずです』という答えです。しかし、実際はよくなっておらんやないか、悪いやないか。こういうことは、つけた人もつけてもらった人も、発見していなくてはならない。それが発見されず、こういうふうに大勢集まったとき初めて悪いことが発見されるようなことでは、さっぱりわややなという感じがするのであります」
 それは、「関係者の方々には文句を言ってすまないんでありますが...」と、気をつかっての指摘でした。
 そして、「皆さんは精いっぱい努力しておられる。けれども、どこかに抜けるところがあるんではないか。もうひとつダメを押すということをしていないのではないか。今後は絶対そのようなことのないように、ダメを押したうえにもダメを押してやっていただきたい」と続けました。
 仕事の基本として「プラン・ドゥ・チェック」の三つがあります。そのチェックの大切さを、松下は、昔の武士が人を討つときに必ず行なった「とどめを刺す」という言葉で説いたのです。

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▲今も息づく松下電器(現Panasonic)のこだわりの音響システム。
生活の中で充分に楽しむことができます。
スピーカー内蔵で音が天井から降り注ぐ照明器具、180度サウンドで空間を包み込むワイヤレススピーカー、テレビの音声が手元から聞こえるコンパクトスピーカー。
他にも高音質機能がより進化した、ハイレゾ対応ステレオシステムなど、シーンや嗜好に合わせて商品は豊富。


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松下幸之助氏とは、中村社長が尊敬する人物の一人。
パナソニックの創業者である松下幸之助氏が生前に語られたお言葉は英知と洞察にあふれています。
この特集ページでは、毎号ひとつずつ皆様にご紹介いたします。(PHP出版の書籍より)

【松下幸之助】日本の実業家、発明家。
パナソニック(旧社名:松下電器産業、松下電器製作所、松下電気器具製作所)を一代で築き上げた経営者である。異名は経営の神様。自分と同じく丁稚から身を起こした思想家の石田梅岩に倣い、PHP研究所を設立して倫理教育に乗り出す一方、晩年は松下政経塾を立ち上げ政治家の育成にも意を注いだ。

PHP総合研究所 研究顧問 谷口全平
松下電器の創業者である松下幸之助は、資金も学問もなくしかも病弱。
「徒手空拳」ですらなく、マイナスからの出発であった。
にもかかわらず、かにして成功を収めることができたか?
本書は波瀾に満ちた94年生涯で語られた【人生をひら言葉】を軸に、松下幸之助の信条や経営観、人間としての喜びを解説した。「勝てばよし」がまがり通る今日、「なぜ生きるのか」を問う人生の書である。