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vol.97 特集:第29回 松下幸之助人生をひらく言葉

「天馬空を往く」

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 "天馬往空"という言葉、何の障害もなく空を飛べればさだめし愉快だろうという意味で書いたんです。人生航路は障害だらけというのもひとつの見方であるし、人生航路は融通無礙であるという見方もひとつの見方やと思うんですね。だから障害だらけというように考えたら、私は障害だらけになってくるだろうと思うんです。しかし融通無礙にいくもんだというふうに考えれば、私はその通りになってくるんじゃないかというような感じもするんですがね。これは心の持ちようひとつですね、早く言えば。

松下幸之助は

「天馬往空」という言葉を揮毫し、部屋に掲げていたことがありましたが、それには次のようなエピソードがありました。
 山陽特殊製鋼の倒産や山一證券の破綻などが相次ぎ、不況に明け暮れた昭和四十年の大晦日のこと、松下はNHKの紅白歌合戦の審査員として、俳優の緒形拳氏やボクシングのファイティング原田氏らとともに審査員席に着いていました。
 松下は、日々仕事に追われて、あまり若い人の歌に接したことがないだけに、審査員には不適任だと断ろうとしたのですが、出場者のなかには関係会社のビクターやテイチクの歌手もいて、いささかの義理もあり、激励の意味も含めて引き受けたのでした。
 しかし、テレビではなく会場で直接見る舞台は、文字通り豪華絢爛(ごうかけんらん)、見ていて心地よいものでした。華やかな舞台に見とれ、二時間半がまたたくまに過ぎていきました。
 松下は終わると同時に外に飛び出さねばなりませんでした。元旦早々の仕事が大阪で控えていたため、零時一分に羽田空港を発つ飛行機に乗る予定になっていたからです。しかし、あまり時間がありません。
 NHKの格別の配慮でスムーズに羽田に到着し、タラップに足をかけたときは、昭和四十年がまさに終わろうとしているときでした。そして、天空に飛び立ったとき、昭和四十一年の新しい年が静かに明け始めていました。
 松下はそのとき、ハタとひざを打ちました。
 【今年はウマ年。ぼくもウマ年の生まれだ。ウマ年のぼくが、ウマ年がまさに明け初めんとするときに、天空高く飛んでいる。まさに「天馬空を往く」図ではないか。こいつは縁起がいいぞ】
 そう考えると、【数年続いた深刻な不況を脱し、今年こそは「天馬空を往く」ような発展をしなければならない。それはきっとできる】という勇気がフツフツと湧いてくるのでした。
 「天馬往空」この揮毫(きごう)には、不況だからと自分で自分の限界をつくらず、天馬が空を縦横に駆け巡るように、存分に知恵や心を働かせて工夫し、道を切りひらいていきたいという強い願いが込められていたのです。



▲1965年(昭和40)不況の情勢を表す2大事件▲
●山一證券破綻
山一の経営状態は、自粛協定外の西日本新聞が、1965年5月21日朝刊で1面トップ記事を載せ、他紙も同日付夕刊トップで一斉に追随した。
22日は土曜日で半日営業であったが、山一各支店は朝から投信、株式、債券の払い戻しを求める客が殺到した。
その後、バブル期にあたる1987年から1990年にかけて、毎年1,000億円以上の経常利益を上げていたが、1997年、会社創立から100年目という節目の年に、廃業。

●山陽特殊製鋼倒産事件
1965年に山陽特殊製鋼が倒産した際、同社経営陣が粉飾決算していたことが明らかになった経済事犯。
倒産当時、常務であった上杉年一は、ほとんどの役員が解任される中、技術者であったため管財人より会社に残るよう指示され会社再建に尽力、後に社長になった。2007年TBSドラマ『華麗なる一族』の木村拓哉演じる万俵鉄平はそのモデルといわれている。


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松下幸之助氏とは、中村社長が尊敬する人物の一人。
パナソニックの創業者である松下幸之助氏が生前に語られたお言葉は英知と洞察にあふれています。
この特集ページでは、毎号ひとつずつ皆様にご紹介いたします。(PHP出版の書籍より)

【松下幸之助】日本の実業家、発明家。
パナソニック(旧社名:松下電器産業、松下電器製作所、松下電気器具製作所)を一代で築き上げた経営者である。異名は経営の神様。自分と同じく丁稚から身を起こした思想家の石田梅岩に倣い、PHP研究所を設立して倫理教育に乗り出す一方、晩年は松下政経塾を立ち上げ政治家の育成にも意を注いだ。

PHP総合研究所 研究顧問 谷口全平
松下電器の創業者である松下幸之助は、資金も学問もなくしかも病弱。
「徒手空拳」ですらなく、マイナスからの出発であった。
にもかかわらず、かにして成功を収めることができたか?
本書は波瀾に満ちた94年生涯で語られた【人生をひら言葉】を軸に、松下幸之助の信条や経営観、人間としての喜びを解説した。「勝てばよし」がまがり通る今日、「なぜ生きるのか」を問う人生の書である。