- HOME
- vol.111 松下幸之助 人生をひらく言葉
vol.111 松下幸之助 人生をひらく言葉
「宗教も学問もすべて人間の幸せのためにある」
宗教は人間の幸せのために存在する、学問もまたその通りであります。いっさいは人間が主である。そうすると、神の教えを説くにいたしましても、主体は人間である。人間の幸せのために神の教えを説くんである。こういうふうに考えられる。いつの場合でも人間は主体とならなくちゃならない。人間が主座に立たなくちゃならない。ところが一面、人間が下僕(げぼく)になり、そして人間の主座というものが変わってきたというところにですね、過ちが繰り返されてきているんじゃないかという感じがするんです。 |
松下幸之助が、
事業を起こして十年ほど経った頃のことです。
いつもたくさんの商品を買ってくれる大得意にОさんという人がいました。
松下より十歳ほど年上で、奥さんを亡くしたあと、再婚をしました。その新しい奥さんがある新興宗教の信者で、Оさんも奥さんに誘われるままにその宗教に熱を入れ始めたのです。
そしてその宗教のお坊さんの勧めで、店の前にお地蔵さんのお堂を建てることになりました。
ところが、一人で建てるのではなく、多くの人の協力の下に建てたほうが霊験はさらにあらたかになるということで、松下のところにも寄付の要請がありました。
お得意先でもあるし、むげに断わるわけにもいかないということで、松下も応分の寄付をしたのですが、そうこうするうちにまたОさんがやって来て、「あんたの身体が弱いのは信仰心がないからや。うちの坊さんに一度会ってみなはれ」と強く勧めたのです。
松下もついその熱心さにほだされ、「それじゃまあ一度来てもらってください」ということになりました。
その坊さんはやって来て、「あんた、こうしなければ身体はますます悪くなりますよ」と言います。最初は大事なお得意先の勧めでもあるので、松下は「はい、はい、そうですか」と聞いていましたが、その言い方があまりにも強圧的になってきたので、こう言ったのです。
「ぼくはどうもそういう気にはなれません。あなたの言うことはいい面もあるけれど、自分で得心ができない点も多々ありますので、しばらく考えさせてください」
その後Оさんはその宗教のことで息子さんと喧嘩をし、息子は家を飛び出し、しばらくして店は倒産しました。原因はОさん夫婦がその宗教に入れあげたこと、また取引先にまで強引に勧め、取引先から敬遠されたことでした。
松下はこのようなみずからの体験を語りながら、宗教でも、学問、思想でも、あるいは教育や政治でも、すべては人間の幸せに貢献するものでなければ意味がないと言うのです。
日本の宗教について
2018年にNHKが調査した内容によると
■仏教31%
■神道3%
■キリスト教1%
■その他1%
■無回答2%
■信仰宗教なし61%
といったように、無信仰が過半数を占める世界的に見ても珍しい国だということがわかる。
ただ一方で、七五三や結婚式、お葬式といった宗教に関わった行事に参加した人数をカウントすると、ゆうに2億人を超えるとい
う事実。
日本人は生まれた時から、昔からある何かしらの宗教行事に無意識に関わっている。
年明けに初詣に行き、クリスマスやハロウィンを楽しんでも、「無宗教」...。
無宗教なのに犯罪が少なく、災害時にも海外に見るような略奪騒ぎもない...すべてのモノには神が宿る、といった自然信仰が根付き、『感謝する』ことが根本にはある。
日本に触れた諸外国の方々が、日本を『惑星』に例えられる所以はそういったところからかもしれない。