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vol.113 松下幸之助 人生をひらく言葉
「運と愛敬がない人間はあきまへん」
もちろん、ひととおりの勉強ができるかどうか、ということも大事だし、人に対する説得力も重要やけど、問題は運ということですな。いくら能力があっても、いくら学問があっても、運のない人間はあきまへんわ。運があるかないか、これが第一です。それに愛敬。むろん、女性の愛敬と、男性の愛敬と、ちょっと違いはありましょうが、とにかく、愛敬。人をひきつける明るい魅力ですな。それがない人間はあきまへんわ。そういうことを面接で見るわけです。 |
松下幸之助が
松下政経塾を設立したときのこと。
開塾に先立ち、ある雑誌のインタビューで、「塾生を選ぶ基準、合格の基準は、いったい何ですか」と問われています。
「そこがいちばんむずかしい。ほんとうのね、素質のある人物を見つけなければダメですな」
「素質...、ですか。しかし、その素質のある人物を見つけるのは大変むずかしいでしょう」
「ぼくは、今まで六十年間商売をしてきて、何万という小売屋さんを相手にしてきました。その、何万という小売屋さんのうちに、成功する小売屋さんと失敗をする小売屋さんがある。非常に頭はよろしい。勤勉である。しかし、それでも成功しない人がいる」
「何ですか。その成功する人物と、失敗する人物との差は」
松下がこの質問に対して答えたのが冒頭の言葉なのですが、松下は、成功の条件は『運』のいいことと『愛敬』のあることだと言い、松下政経塾にもそのような人を採りたいと言うのです。そして、「運のいい人は経歴と顔を見れば分かる」と言い切っています。
松下は、十五歳のとき船から海へ落ちますが、幸運にも助かっています。また、松下電器を創業した頃、自転車に部品を積んで走っていて自動車と衝突し、飛ばされて落ちたところが電車道、しかし、電車が寸前で急停車し九死に一生を得ています。こうした体験から、『自分はついている。これほどの運があれば、ある程度のことはできるぞ』という確信を持った、それがその後の人生に大いに役立ったと言います。
もう一つの愛敬について、松下は、長い事業体験のなかから、愛敬のない人には情報や強力が集まらない、だから物事がスムーズに進まない、ということを痛感していたのでしょう。
運と愛敬、松下政経塾生を選ぶ基準にしては論理的ではない、何か突拍子もない基準に思われますが、人間に対する深い洞察から生まれた松下一流の見方ではないでしょうか。
【松下政経塾】
松下政経塾は1979年6月21日に設立され、翌年4月に開塾した。
神奈川県茅ケ崎市の2万平米という広大な土地に、本館・研修棟・寮棟・茶室・体育館が建っている。
松下幸之助塾主の「民主主義発祥の地」のイメージでという希望に基づき、白亜の壁と茶色の屋根にも象徴されるように、ギリシャ・エーゲ海といった地中海風の建物で統一されている。
また庭の木々や灯篭には和風庭園の趣があり、和と洋の融合によりここから新しいものを生み出すという意味を含んでいる。
【左】茶室「松心庵」
日本の伝統文化を体得してこそ世界に通用する国際人といえるといった考えの下、裏千家の講師の先生をお招きし、このお茶室で茶道をご指導頂く。
【右】本館・研修棟
アーチ門をくぐると正面に本館、右手奥に研修棟。
研修棟は主に塾生の研修を行う施設であり、円卓室、教室、講堂等がある。
【左】体育館
施設内には他にラバーコード一面のテニスコートがある。
【右】ラウンジ
塾生の憩いの場。お客様のおもてなしにも使用している。