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vol.114 松下幸之助 人生をひらく言葉
「人の長所が目につく人は幸せである」
ぼくの口から言うとおかしいけれど、社員はどの人もぼくより偉いと思うんです。ぼくは字よう書かんのに、あいつ字うまいこと書きよんなと。しゃべらしたらあいつのほうがうまいなと。結局、使う人みなそれぞれ、ぼくより偉いなという感じがするんですよ。これは正直なところでね。それがぼくの今日の成功といえば成功かわからんね。だから人の長所が多く目につく人は幸せである。人の短所に多く目のつく人は不幸せな人であると、こういうようなことが言えるんやないかと思いますね。 |
松下幸之助は、
「あなたの成功の秘訣は」と問われて、「ぼくに学問がなかったことと身体が弱かったこと」と答えたことがありました。
その理由として、「自分は学問がなかったから、社員が全部自分より偉く見えた。だから、自然みなの意見に耳を傾ける。それで衆知が集まり経営がうまくいった。身体が弱かったから、部下に仕事を思い切って任せるようになる。すると、みなその持ち味を生かしてどんどん仕事をしてくれた。それで会社が発展してきた。一人ではとてもこれだけの仕事はできなかっただろう」つまり、学問や健康に恵まれなかったがために、社員のよいところに目がいった、それがよかったと言うのです。
電化元年といわれた昭和三十年頃から松下電器は業容を大きく伸ばしてきましたが、その頃の幹部の人たちには、決断力、実行力、指導力に富んだ個性の強い人たちがそろっていました。
松下電子工業の責任者であったМ氏もそのような一人で、バイタリティあふれ豪放磊落、半面、お酒の席も好きで、夜な夜な部下を引きつれ花街を飲み歩くというようなところもありました。
あるとき、松下にある人が、「Мさんは京都の祇園に毎晩入り浸りのようですよ。ちょっと遊びすぎじゃないでしょうか」といったことを告げ口したのです。それに対して松下はぽつんとこう答えました。
「そうですか。しかしね、よう仕事する者はようメシを食いますわな。メシを食うなと言ったら仕事もできんようなりますで」
こう言われると、告げ口をした人もあとの言葉が続かず、それで話は終わったと言います。
松下は、М氏の長所のほうに目をやっていたのでしょう。
私たちは人の短所にいったん目がいくと、そのことにとらわれて、ともすると「あいつはダメなやつだ」とすべてを否定しがちです。
しかし、冷静に見れば、どの人にも必ず長所があるものです。そこに目をやれば、その人に対する気持ちも、対応の仕方も、またおのずと変わってくるのではないでしょうか。